Murakami Journal
演劇批評を中心としたエッセイ

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安全神話崩壊の背後にあるもの

安全神話崩壊の背後にあるもの

第30回犯罪社会学会に参加して
(2003年10月28日付)

 今月18~19日の2日間、設立30周年をむかえた犯罪社会学会が沖縄国際大学で開催された。

 ここで紹介するのは、わが国の犯罪動向について、メディアと専門研究者の現状認識に大きなギャップがあることをあらためて再確認させられたシンポジウム「犯罪は増えているのか?」である。

 このシンポ企画の意図を、コーディネーターの浜井浩一龍谷大学教授(元法務省総合研究所)は、メディア批判をこめて次のように述べている。

 「近年、わが国では犯罪の認知件数が急上昇する一方で検挙率が急低下するなど、安全神話が崩壊したといわれている。マスコミや有識者は、凶悪事件が起こるたびに短絡的に統計上の犯罪の増加をモラルの低下に結びつけて、『古き良き日本』を懐かしんでいるが、昔の日本はそんなに住みやすい国だったのだろうか。このシンポでは、犯罪統計をいろいろな観点から再検討し、何が見かけ上の悪化なのか、何が本当に増加しているのかを見極めつつ、日本の治安の現状に肉薄したい」

 まず法務省総合研究所の大場玲子氏が「犯罪情勢の悪化とその指標」と題して、『犯罪白書』作成の立場から、犯罪認知件数の激増と検挙率の低下、強盗犯の増加など公式統計の詳細を報告した。

 これに対して、河合幹雄桐蔭横浜大学教授は「犯罪統計のからくり――犯罪統計の正しい読み方」と題して、公式統計への全面的な批判を展開した。

 犯罪認知件数の激増は2000年、桶川女子大生殺害事件によって不手際を指弾された警察の認知手続きの増加と警察官1万人の増員によるもので、02年は微増、03は横ばい状態である。

 また、犯罪激増を特徴づけているのは「器物損壊」で、それまで「前さばき」(不認知)されていたものが計上されるようになったためである。たしかに「強制わいせつ」と「強盗」の増加は認められるが、前者は「痴漢」の迷惑防止条例違反から強制わいせつ罪への格上げによるものであり、後者についても、同様に罪種間でのカウント上の変更がみられる。また、認知数と検挙数にほぼ一致が見られる「殺人」は戦後ずっと減少しているのであって、河合氏は「治安の悪化はウソ」だと論じるのである。

 さて、この欄の読者は河合氏の主張を少数意見と思われるにちがいない。けれど、犯罪統計の専門家の多くが彼の統計分析を支持したのである。なかでも、河合氏を受けて、治安対策として監視カメラ導入など「不信」に基づいた街づくりよりも「信頼」を醸成する街づくりこそ犯罪予防の基本だという発言が印象的だった。

 それにしても、河合氏のような犯罪統計の読解法がメディアによって「正しく」伝えられたとしても、現在国民の間に広がる治安悪化に対する不安の高まりは解消されることはないだろう。なぜなら不安は時代の複合感情だからである。

 その意味で興味深かったのは、松本良夫武蔵野大学教授の自由発表「殺人発生率と自殺率の関連」だった。

 自殺は最近のメディアで報じられることの少ない社会問題だが、社会学者の松本氏は「危機の内向率」(自殺件数÷【殺人件数+自殺件数】×100)という指標を提唱し、その年次的統計の作成によって、わが国はこの50年間「内向率」が国際的にみて高水準で増えていることを指摘する。

 自殺も殺人も社会の連帯感情喪失の表れとみるのが社会学のまなざしだが、松本氏の研究はわが国が真に直面している「危機」の深層を解明する上で今後多くの示唆を与えてくれるだろう。



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  1. 2003/10/28(火) 07:45:00|
  2. メディア月評(1999~2003)|
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